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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)414号 判決

原告

株式会社小久保工業所

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

【C】

被告

進弘繊維株式会社

代表者代表取締役

【D】

訴訟代理人弁護士

中嶋邦明

平尾宏紀

井上楸子

同弁理士

【E】

【F】

【G】

【H】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  請求

特許庁が平成10年審判第35033号事件について平成10年11月30日にした審決を取り消す。

第2  前提となる事実(当事者間に争いのない事実)

1  特許庁における手続の経緯

被告は、考案の名称を「ごみ袋」とする登録第2047290号実用新案(平成2年3月23日出願(実願平2‐30409号)、平成6年3月2日出願公告、平成7年1月23日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案登録権者である。

原告は、平成10年1月21日本件考案の登録を無効とすることについて審判を請求した。

特許庁は、この請求を平成10年審判第35033号事件として審理した結果、平成10年11月30日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、同年12月7日原告に送達された。

2  本件考案の要旨

上下が開口した筒形網体の上端周縁に口ゴム部を設け、

筒心を軸に下端部を捩って折返すと共に、

網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成した

ごみ袋。(別紙1第1図ないし第4図参照)

3  審決の理由

審決の理由は、別紙2審決書の理由写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり、審決は、本件考案は引用例1(審決時甲第1号証、本訴甲第3号証。実公昭47-4800号公報)及び引用例2(審決時甲第2号証、本訴甲第4号証。実開昭62-100903号公報)に記載された考案から極めて容易に考案をすることができたものであるから、本件考案の登録は実用新案法3条2項の規定に違反して登録されたものであり、同法37条1項1号の規定により無効とされるべきである旨の請求人(原告)の主張は、理由がないと判断し、本件考案の登録を無効とすることはできないとした。

第3  審決の取消事由

1  認否

(1)  審決の理由1(本件登録実用新案の要旨)及び2(当事者の主張)は認める。

(2)  審決の理由3(当審の判断)のうち、審決書4頁2行「甲第1号証」から4行まで、及び4頁10行ないし17行は争い、その余は認める。

(3)  審決の理由4(むすび)は争う。

2  取消事由

審決は、相違点の認定を誤り(取消事由1)、相違点についての判断を誤った結果(取消事由2)、本件考案の進歩性の判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(相違点の認定の誤り)

審決は、引用例1の考案は、「筒形網体の上端周縁に口ゴム部を設け、筒心を軸に下端部を捩って折返すと共に、網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成したごみ袋」との本件考案の構成を有していない点で両者は相違する旨(審決書4頁2行ないし4行)認定するが、誤りである。引用例1には、「筒形網体の筒心を軸に捩って折返し、網体側面に前記折返した端縁を被せて二重の袋を形成した」ことは示されているものである。

すなわち、引用例1(甲第3号証)の第3図には、筒形網体の筒心を軸に捩ることが示され、第1図には、網体側面に前記折り返した端縁を被せて二重の袋を形成することが示されている。

したがって、審決の相違点の認定の一部は、誤りである。

(2)  取消事由2(相違点についての判断の誤り)

審決は、引用例2には、「本件考案の「上下が開口した筒形網体の上端周縁に口ゴム部を設け、筒心を軸に下端部を捩って折返すと共に、網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成したごみ袋。」の構成は記載していないし、示唆もされていない。」(審決書4頁10行ないし14行)と判断するが誤りである。

ア 下端部で捩る点

本件考案のうち、下端部で捩る点については、中間部か下部かは明瞭な区別のつく構成要件ではなく、したがって、どこで捩るか、そして、底部のみを二重にするか、全体又は大部分を二重にするかは設計上の問題にすぎず、当業者なら公知技術からきわめて容易に気が付く事項である。

イ 上端周縁に口ゴム部を設ける点

引用例2(甲第4号証)には、本件考案と同一の流しコーナーに使用する全面多孔性フィルムのごみ袋が示され、その上端縁には口ゴム部が設けられているから、上端周縁に口ゴム部を設けることは、引用例2を組み合わせることによって、容易に想到することができるものである。

ウ 固着の点

捩って折り返して二重の袋にする限り、何らかの方法で折り返し部を固着するのは、当業者なら当然のことである。

エ 甲第7号証

なお、甲第7号証(実公昭63-35550号公報)には、「両端が開放された一定長の筒布であって、その一側に排風窓を設けると共に、前端開口部の周辺にゴム、又は紐等を挿通して絞縮可能とし、・・・一定の目巾に編織された筒状の網袋であって、その径及び長さを上記筒布と略同一に縫製する」技術が記載されており、この記載は、引用例1及び引用例2を補強するものである。

第4  審決の取消事由に対する認否及び反論

1  認否

原告主張の審決の取消事由は争う。

2  反論

(1)  取消事由2(相違点についての判断の誤り)について

引用例1には、本件考案の構成のうち、筒形網体の構成に相当する構成や、筒心を軸に捩って折り返す構成に相当する構成があるとしても、捩って折り返す部分が下端部である構成や、折り返した端縁を網体の側面に固着して二重の袋底を形成する構成は、記載も示唆もされていない。

また、引用例2には、本件考案の構成のうち、上端周縁に口ゴム部を設けた構成に相当する構成や、ごみ袋であることに相当する構成があるとしても、その余の構成は、記載も示唆もされていない。

したがって、本件考案の構成のうち、

(ア) 下端部を捩って折り返す構成、

(イ) 網体側面に折り返した端縁を固着して二重の袋底を形成する構成は、引用例1にも引用例2にもないから、引用例1と引用例2とをどのように組み合わせても、本件考案に想到することはできない。

しかも、本件考案は、上記構成が一体不可分となって、二重の袋底にごみの重量がかかると、中心部が更にきつく締められ、耐荷重性に優れ、また、水分等は上部の一重の部分から速やかに排出されるという作用効果を奏することができるところ、引用例1や引用例2には、これらの構成が一体不可分となって上記の作用効果を奏することを示唆するところもない。

理由

1  取消事由1(相違点の認定の誤り)について

(1)  本件考案の要旨(前記第2、2)は、当事者間に争いがない。

(2)  引用例1の考案の認定及び本件考案と引用例1の考案との一致点、相違点の認定(審決書3頁13行ないし4頁4行)のうち、引用例1の考案は、「筒形網体の上端周縁に口ゴム部を設け、筒心を軸に下端部を捩って折返すと共に、網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成したごみ袋」との本件考案の構成を有していない点で両者は相違すること(審決書4頁2行ないし4行)という部分を除く事実は、当事者間に争いがない。

(3)  甲第2号証によれば、引用例1(実公昭47-4800号公報)には、「図面は本案包装体の実施例を示すもので、第2図は本案包装体の素材として用いられる軟質発泡プラスチック製の伸縮自在な筒状網状物1であるこの筒状網状物1を第3図に示すようにその長さのほぼ2分の1に当る位置で一回転ねじり、このねじった個所2を境にして筒状網状物の一片Aを他片Bの上に被せることにより、第1図に示すような本案包装体が完成される。」(1欄34行ないし2欄7行)、「2重になった網状物」(2欄19行、20行)、「軟質発泡体と2重構造とが相俟って外部からの圧迫を完全に防御することができる。」(2欄24行ないし26行)と記載されていることが認められ、これらの記載及び前記当事者間に争いのない事実によれば、引用例1には、原告の主張する「筒形網体の筒心を軸に捩って折り返し、網体側面に前記折り返した端縁を被せて二重の袋を形成した」ことが示されており、この構成のみを抽出すれば、その点では本件考案と引用例1の考案との間に相違はないものと認められる。

(4)  しかしながら、審決は、本件考案における上記の構成部分を個別に取り上げて、引用例1の考案との間の相違点として認定したものではなく、以下のアないしエの各相違点を認定するに当たり、やや包括的に表現したため、上記の構成部分を相違点として認定したかのような結果となったものというべきである。そして、上記のように、原告主張の点を一致点と認めても、前記当事者間に争いのない事実及び甲第2号証、第3号証によれば、審決が次のアないしエの点を本件考案と引用例1の考案との相違点として認定したことは明らかであり、その認定自体に誤りはないものである。

ア  本件考案はごみ袋に関するものであるのに対して、引用例1の考案は、りんご、なし類の包装体に関するものであること、

イ  本件考案では上端周縁に口ゴム部を設けているのに対して、引用例1の考案では口ゴム部は設けられていないこと、

ウ  捩る位置に関して、本件考案では「下端部」を捩るのに対して、引用例1の考案では「ほぼ2分の1に当る位置」で捩ること、

エ  本件考案では、折り返した端縁を網体の側面に固着して、袋が一重の部分を上部に残して袋底のみを二重に形成したのに対して、引用例1の考案では、反転した一片の一端を他片に固着することなく、反転した筒状網状物の一片を他片の筒状網状物に被せて袋全体を二重に形成したこと。

(5)  審決は、以上のアないしエの相違点を前提として、本件考案と引用例1の考案とを対比し、検討しているのであって、上記の原告主張の点が一致点であるとしても、このことから審決のした容易推考性に関する判断に影響が及ぶものでないことは、後記2(取消事由2について)の説示からも明らかである。

2  取消事由2(相違点の判断の誤り)について

(1)  上記相違点ウ(捩る位置の点)、相違点エ(折り返した端縁固着の点)について検討する。

甲第2号証によれば、審決も認定するとおり(審決書5頁3行ないし11行)、本件考案は、「下端部を捩って折返すと共に、網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成」(登録請求の範囲)することによって、「二重の袋底を作成したことから、この袋底にごみの重量がかかると、中心部が更にきつく締められ、耐荷重性に優れる。・・・さらに、下端部のみが二重になっていることから、水分等は上部の一重の部分から速やかに排出される。」(甲第2号証(2)頁右欄18行ないし25行)との作用効果を奏するものであることが認められるところ、甲第3号証及び第4号証によれば、引用例1及び引用例2には、上記のように構成することの記載も示唆もない(なお、原告が引用例1及び引用例2を補強するものとして提出する甲第7号証を参酌しても、この点の判断は同様である。)。

(2)  原告は、下端部で捩る点について、中間部か下部かは明瞭な区別のつく構成要件ではなく、したがって、どこで捩るか、そして、底部のみを二重にするか、全体又は大部分を二重にするかは設計上の問題にすぎない、また、捩って折り返して二重の袋にする限り、何らかの方法で折り返し部を固着するのは当業者なら当然のことである旨主張する。しかしながら、原告の上記主張は、その主張を裏付ける周知技術等の指摘もなく、自明のことともいえないものであり、採用することができない。

(3)  したがって、本件考案は、引用例1の考案に引用例2の考案を合わせて考察しても、極めて容易に想到し得たものと認めることができない旨(審決書4頁15行ないし17行)の審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由2は理由がない。

3  結論

以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成11年9月16日)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

〈省略〉

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